あんたCPUなんか創ってどうするのよ?! Vol.1 第2章

~TD4とかいうCPUがあまりにも残念だったので拡張してみた~

2016/8/14
コミックマーケット C90 3日目 西g16b

第2章 TD4をもっと深く掘り下げる

第2章 第1節 「CPUの創りかた」を掘り下げる

「CPUの創りかた」は良く出来た書籍だとは思いますが、対象読者が初心者であるためか、いくつか説明が不足している部分があります。

筆者が個人的に残念だと思うのは、設計思想、特に命令デコーダーをなぜこのように設計したのかが書かれていない事です。

命令デコーダーの設計は第9章で行っていて、やれ真理値表だのド・モルガン律だのカルノー図だのと言った説明はありますが、設計の最終結果だけが書かれていて、渡波郁氏がどのように考え、何に悩んだのかは書かれていません。

用意した命令の種類についても同様です。CPUの仕様は第6章に書かれていますが、ここでも初めに結論ありきで、現在の命令に決まった経緯については全く書かれていません。挿絵には「お願い納得して」とある有様です。さすがに如何なものでしょうか? 初心者向けの書籍とはいえ、少しは途中経過を入れたほうが読み物として面白いでしょうし、同じようにCPUの設計にチャレンジしようとする人の役に立つと筆者は考えます。

他の書籍、例えばトレイシー・キダー著の「超マシン誕生」では、コンピューター野郎たちがどのようにしてCPUを作り上げたかがドラマチックに書かれています。特に第4章で主任アーキテクトのスティーブ・ワラックが保護リングの適用方法を考え付くくだりは、彼に天啓が訪れる瞬間を「黄金の瞬間」と称して描写していて、素人には全く分からない内容にもかかわらず感動させるだけの迫力があります。

写真4 当Club の所有するインテル4004
写真4 当Club の所有するインテル4004

同様に、インテル4004を設計した嶋正利氏の著書では共同開発者のフェデリコ・ファジン氏との衝突や、テッド・ホフ氏が提示した命令案に対してどのように嶋氏の考えを取り入れさせたかなど、設計の苦労が克明に描かれています。ネットにも嶋氏の記事がありますので興味のある人は読んでみると良いでしょう。

苦労して何かを成し遂げた人は、意識的にせよ無意識にせよ、それを皆に伝えたくなりますし、実際そういった話は面白いものです。

しかし「CPUの創りかた」には、そういった伝記的な部分は全くありません。CPUが出来たから書いてみた、という感じです。読者としては少々物足りません。